申告の時期は、目の前の仕事で手いっぱい。新しい顧問先を増やしたい気持ちはあっても、営業の電話をかけたり、ブログや動画を作ったりする時間はなかなか取れません。そこで「営業代行」や「YouTubeの運用代行」を調べてみると、会社の紹介やメリット・デメリットの話はたくさん出てきます。けれど、任せたあと、先生と事務所の人は何をすればいいのかは、意外と書かれていません。

この記事では、営業や発信を外に任せるときの分担を、先生・事務所の人・外の3者に分けて1枚の図にしました。どの会社に頼むかを選ぶ前に、事務所の中で決めておくことをまとめています。

営業・発信を任せるときの分担(先生・事務所の人・外)

  • 先生(2つだけ)
    話す(よく聞かれる質問に答える)/確かめる(税務の中身・言い方・出してよいか)
  • 事務所の人(窓口)
    質問の候補を集める/日程の調整/外とのやりとり/問い合わせを受ける
  • 外(任せられる)
    段取り・構成の案/編集・字幕・図/題名と説明文の案/投稿の作業/数の記録
  • 任せないもの
    税務の判断・答え/顧問先の名前・数字・資料/公開してよいかの最終判断
図1 営業・発信を外に任せるときの、先生・事務所の人・外の分担。右下の「任せないもの」は事務所に残します

税理士の営業代行・外注は「先生が話す・確かめる」だけ残す

税理士事務所が営業や発信を外注(外に任せること)するとき、いちばん大事なのは「何を任せるか」より先に「何を任せないか」を決めることです。税理士の仕事には、税務の中身の判断や、顧問先の秘密を守ることなど、外の人には渡せない部分があります。ここをはっきりさせておけば、残りは安心して任せられます。

図1のとおり、分担は3者で考えます。分担というと「税理士」と「外注先」の2者で考えがちですが、実際には、事務所の職員の方が窓口になる場面がたくさんあります。顧問先からの電話やメールで聞かれた質問を集めるのも、外との日程を合わせるのも、公開したあとの問い合わせを受けるのも、事務所の人です。

  • 先生は、「話す」と「確かめる」の2つに集中します。
  • 事務所の人は、先生と外をつなぐ窓口になります。
  • 外は、手を動かす作業(段取り・編集・投稿など)を引き受けます。

先生の時間は、税務と顧問先のために使っていただくのがいちばんです。営業や発信のために先生が使う時間を「2つだけ」にしぼると、忙しい時期でも続けやすくなります。

「会う営業」の代行と「発信」の外注は別のもの

「営業を外に任せる」と言っても、中身は大きく2つに分かれます。1つは、電話やメールで見込みのある会社に声をかけ、面談の日程を決めるところまでを任せる営業代行(会う営業)。もう1つは、記事や動画など、検索した人に見つけてもらう材料を作ってもらう発信の外注です。士業の YouTube 運用代行や動画制作は、後者にあたります。

どちらが良い・悪いではなく、任せるものが違うので、事務所で準備することも違います。

任せる場面ごとの、先生・事務所の人・外の分担
任せる場面先生事務所の人外
会う営業を任せるとき(電話・面談の日程まで)面談で話す・ご相談に答える・お引き受けするかを決める日程の受け取り・面談の準備・やりとりの記録相手探し・電話やメール・面談の日程・資料の送付
発信を任せるとき(記事・動画)質問に答えて話す・中身と言い方を確かめる質問の候補集め・外とのやりとり・問い合わせの受け付け構成の案・編集・字幕・題名と説明文の案・投稿の作業

会う営業なら「どんな会社と会えたら成果か」、発信なら「だれに向けて、どの質問に答えるか」を先に決めておきます。

2つは組み合わせることもできます。たとえば、会う営業を任せていても、面談の前に「よくある質問への答え」をまとめた記事や短い動画を見てもらえれば、先生が一から説明する時間が短くなります。どちらを任せる場合も、先生の「確かめる」は残ることだけは共通です。

どの入口から始めるか、入口をどの順番で足していくかは、税理士の集客の記事にまとめています。

先生にしかできない2つ:話す・確かめる

話す:顧問先によく聞かれる質問に答える

発信のネタは、新しく考えなくても、ふだんの仕事の中にあります。顧問先から電話やメールで何度も聞かれる質問に、先生がいつもの言葉で答える。それがそのまま、記事や動画の中身になります。

話す形は、決まっていません。カメラに向かって話すのが落ち着かなければ、オンライン会議の道具(Zoom など)で資料の画面を映しながら話す、声だけを録音する、箇条書きのメモを渡す、といった形でも構いません。大事なのは答えの中身が先生の言葉であることです。

確かめる:税務の中身・言い方・出してよい情報か

もう1つは、外が整えてくれたものを、公開の前に先生が確かめることです。見るのは次の3つです。

  1. 税務の中身が正しいか(制度の説明や、例外の扱いなど)
  2. 言い方が誤解を招かないか(言い切りすぎていないか・大げさになっていないか)
  3. 出してよい情報だけか(顧問先が分かる話や数字が入っていないか)

なぜこの2つが先生にしかできないのか。税理士の団体の説明では、税理士の業務は「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つとされ、税理士でない人がこれらの業務をしてはいけないことも、法律(税理士法)で決まっています。事務所の名前で出す発信は、内容の正確さに事務所が責任を持つものです。税務の質問に答える部分は、先生が話し、先生が確かめる形にしておくと安心です。どこまでが税理士の業務にあたるかの判断に迷うときは、所属の税理士会や専門家にご確認ください。

出典: 日本税理士会連合会「税理士とは」 https://www.nichizeiren.or.jp/cpta/about/(2026-10-29閲覧)/税理士法 第2条・第52条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237(2026-10-29閲覧)

任せないもの:税務の答え・顧問先の情報・公開の判断

図1の右下、「任せないもの」は3つです。ここだけは、どんなに忙しくても事務所に残してください。

1. 税務の答えを、外の人が書かない

外にお願いするのは、先生が話した答えを、見やすく整えることです。外の人が税務の答えを考えて書き、先生がそれに名前を付けるだけ、という形は避けます。構成の案や題名の案を外が出すのは問題ありませんが、答えの中身は先生の言葉から作ります。

2. 顧問先の名前・数字・資料を、渡さない・映さない

税理士には、仕事の中で知った秘密を守る義務(守秘義務)があります。この義務は、事務所の職員の方にもあります。外に頼むときは、預けたものを作業のためだけに使うことや、終わったあとの扱いを、秘密保持の取り決めとして結んでおくと安心です。顧問先の話を発信に使うときは、名前・金額・資料を出さず、「よく聞かれる質問」の形に直して使います。画面を映して話すときも、デスクトップや開いたままのファイルに、顧問先の情報が映り込んでいないか気をつけてください。

出典: 日本税理士会連合会「税理士とは」 https://www.nichizeiren.or.jp/cpta/about/(2026-10-29閲覧)/税理士法 第38条・第54条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237(2026-10-29閲覧)

3. 公開してよいかの最終判断は、先生がする

投稿の作業は外に任せても、「この内容で公開してよい」と決めるのは先生です。税理士の広告や発信にも守るべき決まりがあるため、うそや大げさな表現はしないようにします。書き方に迷うときは、所属の税理士会・専門家にご確認ください。

外に渡す前に、次の6つを確かめておくと安心です。

  1. 録画や資料に、顧問先の名前・社名が映っていない
  2. 金額・決算書・申告書などの資料が映っていない
  3. 税務の答えは、先生が話した言葉がもとになっている
  4. 確かめる人(先生)と、確かめて返すまでの日数が決まっている
  5. 録画・原稿・できたものの置き場所が、事務所の側にある
  6. 外と、秘密保持の取り決めを結んでいる

税理士の動画制作・YouTubeは「話して録るだけ」から始められる

発信の中でも、動画は「撮影が大変そう」と思われがちです。けれど、先生の分担を「話す・確かめる」にしぼれば、先生がすることは質問を1つ選んで、話して録って、できたものを確かめるだけになります。1本の進め方は、次の図2のとおりです。

  1. 質問を1つ選ぶ事務所の人が候補を3つ出し、先生が選ぶ
  2. 話して録る先生。顔を出さない形でもよい
  3. 外が編集する要点を短く・字幕・図・題名の案
  4. 先生が確かめる直す所は再生時間とひとことで返す
選ぶ(例: 5分)話して録る(例: 15〜20分)確かめる(例: 10〜15分)先生の時間 約30〜40分(例)

公開と、問い合わせの受け付けは事務所の人

図2 動画1本の進め方と、先生の時間の例。時間は説明のための例で、話す長さや確かめ方によって変わります

図2の時間は、あくまで例です。話す長さや、確かめるときに直す量によって変わります。それでも、撮影の段取りや編集を先生が抱えなければ、1本あたりの先生の時間はこのくらいの大きさに収められる、という目安にはなります。

  • 顔を出さなくても作れます。資料の画面と声だけ、または声を入れずに字幕と図だけで見せる形もあります。
  • 撮り方は、ふだんの道具で十分です。オンライン会議の録画機能や、スマートフォンの録画で始められます。
  • 直す所の返し方を決めておくと、確かめる時間が短くなります。「3:20 『必ず』を『多くの場合』に」のように、再生時間とひとことで返します。

録画を渡して編集だけを任せる場合に、事前に決めておくこと(動画の役目・任せる範囲・社内の確認など)は、動画編集を依頼する前に決める5つのことにくわしくまとめています。

外注で失敗しないために、頼む前に事務所で決める3つ

営業代行や発信の外注でよく聞く失敗は、「費用ばかりかかった」「欲しいお客さまと違う人が来た」「やめたら何も残らなかった」の3つです。どれも、分担を決めないまま始めると起きやすくなります。裏返すと、頼む前に事務所で次の3つを決めておけば、防ぎやすくなります。

  1. だれに向けるか(欲しい顧問先を一言で)。例:「創業1〜2年目で、経理を自分でしている個人事業主」。ここが決まっていないと、狙いと違う人が集まります。会う営業を任せる場合は、「どんな会社と会えたら成果とするか」(例: 年商〇円前後で、記帳を任せたい会社)も一緒に決めます。
  2. 確かめる人と、返す日数。例:「確かめるのは先生、初稿を受け取ってから3営業日以内に返す」。ここが決まっていないと、確かめ待ちで止まり、費用だけがかかります。会う営業なら、外が送る案内文や資料を、先生が先に確かめておきます。
  3. 作ったものは事務所に残す。録画・原稿・できた動画・題名と説明文を、事務所のフォルダに置く。やめても、次に使える材料が手元に残ります。会う営業なら、声をかけた相手と面談の記録を、事務所の側にも残してもらいます。

事務所の中で共有するときは、次のような「分担メモ」を1枚作っておくと、先生・事務所の人・外の3者で同じものを見ながら進められます。

今月の1本 分担メモ(見本・架空)窓口: 職員A 確かめる人: 先生(3営業日以内に返す)
第1週
向ける相手
創業1〜2年目の個人事業主
質問
「家で仕事をしているとき、家賃はどこまで経費にできますか?」
だれが
職員Aが候補を3つ出し、先生が1つ選ぶ
第2週
話して録る
先生(〇日・15分ほど・資料の画面と声)
渡し方
事務所のフォルダに置き、見るだけのリンクを外へ
出さないもの
顧問先の名前・金額・開いたままのファイル
第3週
確かめる
先生(初稿から3営業日以内に、再生時間とひとことで返す)
公開・問い合わせ
職員A
残すもの
録画・できた動画・題名と説明文を事務所のフォルダへ
図3 事務所の分担メモの見本(架空)。「いつ・だれが・何を・何を出さないか」を1枚にまとめます

YouTube の運用まで外に任せる場合は、月の料金に何が含まれているかで、事務所に残る作業も変わります。見積もりの読み方は、YouTube運用代行の相場:見積もりの「何が含まれる値段か」を読む方法を参考にしてください。

個人(従業員のいないフリーランス)に頼む場合の決まり

会社や事務所が個人のフリーランスに仕事を頼むときは、仕事の内容・報酬の額・支払期日などを、書面やメールなどで示すことになっています。従業員のいる事務所などが頼む場合、報酬は、成果物を受け取った日から60日以内に支払います。どの決まりが当てはまるかは取引の形で変わるため、判断に迷うときは専門家にご相談ください。

出典: 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」 https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2026/index.html

まず1本だけ任せて、分担を直す

分担は、最初から完璧に決めなくて大丈夫です。おすすめは、まず1本だけ任せてみて、先生の時間が何分かかったかを記録することです。

  • 先生が「選ぶ・話す・確かめる」に使った時間は、それぞれ何分だったか
  • 事務所の人が、外とのやりとりに使った時間はどれくらいか
  • 確かめるときに、何か所直したか。直した理由は何か(中身・言い方・出せない情報)

直した所が多かった場合は、話す前の質問の選び方や、外に渡すメモ(出さないもの・言い回しの決まり)を見直します。先生の時間が思ったより長かった場合は、確かめ方を「中身だけ見る」にしぼり、言い回しの細かい所は事務所の人が先に見る、といった分け直しもできます。

そうして2本目、3本目と分担を直していき、それでも続かないと感じたら、やめてもかまいません。作ったものが事務所に残っていれば、記事やホームページのよくある質問、面談の前に送る資料として使い回せます。

よくある質問

営業代行に任せるだけで、顧問先は増えますか?

営業代行に任せられるのは、多くの場合「会うところまで」です。顧問契約につながるかどうかは、会ったときの説明と、先生がご相談にどう答えるかで決まります。面談の前に見てもらえる記事や短い動画があると、話が早く進みます。頼む前に「どんな会社と会えたら成果とするか」を決めておくと、狙いと違う面談が増えにくくなります。

税理士の YouTube は、先生が顔を出さないといけませんか?

出さなくても作れます。資料の画面と先生の声だけ、または字幕と図だけで見せる形もあります。大事なのは顔を出すことより、答えの中身が先生の言葉であることと、公開の前に先生が確かめることです。

外の人に、税金の解説を書いてもらってもいいですか?

答えの中身は先生が話し、外の人はそれを見やすく整える、という形がおすすめです。事務所の名前で出す以上、内容の正確さは先生が確かめる必要がありますし、個別のご相談に答える形になると、税理士の業務にあたることもあります。どこまで任せてよいか迷うときは、所属の税理士会・専門家にご確認ください。

顧問先の話を、動画のネタにしても大丈夫ですか?

名前・金額・資料は出さず、「よく聞かれる質問」の形に直して使います。特定の顧問先が分かるような話し方も避けてください。税理士には守秘義務があるため、迷うときは所属の税理士会・専門家にご確認ください。

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